Q11 派遣社員の休業②

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Q11 外国人と毎日接触する業務に就いている家族が体調不良を訴えている派遣労働者がいます。派遣労働者本人は、咽頭痛、鼻汁等の風邪症状を呈していることなどから、医師も感染の可能性を認めているのですが、まだ新型コロナウイルス感染の検査を受けられていません。会社としては、当該派遣労働者本人の健康と周囲の労働者への感染リスクを考慮し、派遣労働者を休業させることにして派遣元に相談したのですが、派遣元からは、派遣先都合の休業なので、満額の派遣料金を支払うよう求められました。どう対応すればよいでしょうか?

※この質問は2020年6月5日、学会サイトに掲載されたQ&Aからの転載です。

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A 労働者派遣契約に定めがあればそれによることとなりますが、特に定めがなければ、民法に基づいて判断されることになります。

1.発熱、せき等の風邪症状がみられる労働者については、仕事を休ませるのが望ましいのですが、法律上の義務とまではされていません(後掲厚労省Q&A参照)。
したがって、当該派遣労働者の症状が、業務に従事できる程度にとどまるのであれば、派遣元が派遣労働者に労働に従事させようとしているにもかかわらず、派遣先の判断で休業させることは、派遣先の受領拒絶となり、派遣元は、派遣労働者の労務を提供する準備をして通知をすれば派遣契約上の債務の履行は提供したものとして扱われ、他方で派遣先は、労働者派遣契約に基づき派遣料金を支払う義務を負うこととなりそうです。

2.しかしながら、発熱、せき等の風邪症状のある労働者について新型コロナウイルスへの感染の可能性を考慮した労務管理が要請されている現下の状況においては、少なくとも労務管理上は、当該派遣労働者に就労をさせないことが適切と考えられます。
また、法律上も、派遣元は、感染が疑われる派遣労働者に対しては、その増悪を防ぐなど、安全を確保するために必要かつ適切な配慮をすることが求められており(労契法第5条)、派遣先の関係者を含め、当該派遣労働者に接触する者への安全配慮も求められます。派遣先も、労働契約関係はありませんが、派遣労働者に対し業務上の指揮監督をする立場にありますから、派遣労働者に対し適切な安全への配慮が求められるとともに(派遣先の安全配慮義務違反を認めた後掲裁判例参照)、自社の労働者を含め、当該派遣労働者に接触する者に対する安全配慮も求められるでしょう。

3.労働者派遣契約に基づいて派遣元・先が他方に対して負う責任と派遣労働契約に基づいて派遣元が派遣労働者らに対して負う安全配慮義務、更に、派遣先が派遣労働者らに対して負う安全配慮義務は、法律論上は別問題ですが、派遣元、派遣先ともに、上記の観点からは、風邪症状のある派遣労働者の就労は避けるのが適切と考えられます。

4.結局、派遣先の判断で派遣労働者を就労させなかった場合に派遣料金を支払うべきかは、以上の前提を踏まえて、派遣元から派遣契約上求められる役務の履行の提供がなされたと評価できるかによることになります。しかし、医学的に確定的な判断ができない以上、法的に確実な評価も難しいので、例えば、派遣元において、当該派遣労働者以外の派遣労働者に交代させたり、雇用調整助成金が利用可能であれば活用し、働かせることのリスク等を踏まえて料金額の交渉をするなど、誠実な交渉による解決が望ましいでしょう。

5.安全配慮義務の具体的内容は、労働者らに対する危険の程度により異なり得るので、先述した通り、派遣元は、当該派遣労働者の症状の重篤度や感染可能性の高さによっては、その履行のため、その就労を免除または禁止することが求められる場合があり得ますし、派遣先も、当該派遣労働者のみならず、他の労働者に対する安全配慮義務を履行する観点から、当該派遣労働者の就労を制限する必要が生じ得ます。
よって、派遣労働者がこの相談例のような症状の場合には、派遣元の当該派遣労働者を派遣するとの申し出は、その債務の本旨履行の提供とは評価できず(民法第493条)、弁済の提供の効果は発生しませんから(民法第492条)、派遣元は、他の労働者を交代で派遣する等しない限り、債務不履行責任を負う可能性があり、派遣先は、労働者派遣契約上、派遣料金の支払い義務は発生しないと考えてよいでしょう。(なお、Q5もご参照ください)

6.しかし、派遣労働者が従事する業務の専門性が高いこと等により、他の派遣労働者による代替が難しい場合には、民法の危険負担(民法第536条第1項、第2項)の問題となります。つまり、話は元に戻り、派遣労働者の症状が重いか感染可能性が高ければ、派遣先は派遣料金の支払いを拒否できるけれども、軽ければ、拒否できないことになると考えられます。となれば、その判定は容易ではないので、結局、雇用調整助成金の活用を前提とした料金額の交渉等について話し合うことが望まれることとなります。


【解説】

1.派遣先に派遣料金支払い義務があるかどうかは、民事上の契約関係に関する問題なので、労働者派遣基本契約、個別契約に特に定めがあれば、原則としてそれによることとなりますが、定めがなければ、民法に基づいて判断されることになります(厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」令和2年5月29日時点版9労働者派遣 問3参照)。

 

2.派遣先の民事上の派遣料金支払義務

⑴ 派遣労働者が新型コロナウイルスに感染しているという確定診断がある場合は、法律上当該派遣労働者を派遣先で就労させることはできないといってよいでしょうが(新型コロナウイルス感染症は感染症法上の指定感染症とされており、同法に基づき、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことができるとされています。後述するように、就業禁止措置は、当該派遣労働者や同人に関わる者への安全配慮義務とも言えるでしょう)、本問のように、派遣労働者本人に感染の疑いはあるものの確定診断がない場合で、いわゆる感染者の濃厚接触者にも当たらない場合は、当該派遣労働者を労働に従事させることは、法律上は禁止されていません。確かに、国は、企業に対し、発熱等の風邪症状がみられる労働者については休みやすい環境を整備するよう協力を要請していますから、仕事を休ませるのが望ましいとはいえますが、法律上の義務とは解されません。(厚労省前掲Q&A参照)
また、当該派遣労働者の健康状態が、担当する業務に従事できる程度の症状であれば、(健康配慮の観点から好ましいかどうかは別として)派遣元は、派遣労働者を労働に従事させることにより労働者派遣契約の本旨にしたがった役務提供をさせることは一応可能ですし、また、役務提供をさせなければ、本来は派遣元の債務不履行になってしまいます。

⑵ このような場合に派遣労働者を派遣先の判断で休業させることは、派遣先による役務提供の受領拒絶となるので、派遣元としては、労働者を派遣するので業務に従事させるよう伝えれば、その契約上の債務の履行は提供したことになり(民法第492条、493条)、派遣元は債務不履行の責任を免れる一方で、派遣先は契約上の支払い日に派遣料金を支払う義務及び支払い日の翌日以降の遅延損害金の支払義務を負うこととなりそうです。

 

3. 派遣先及び派遣元の安全配慮義務と新型コロナウイルス感染症対応のための各種助成金を活用した話し合いの必要性

⑴ しかし、労働者派遣契約上の料金支払い義務は別として、上記のとおり、発熱、せき等の風邪症状のある労働者については、新型コロナウイルスへの感染の可能性を考慮した労務管理をすべきと要請されている状況の下では、少なくとも労務管理上は、当該派遣労働者に就労させないことが適切と考えられます。
また、新型コロナウイルス感染症は、軽症者も多いものの、重篤化すると集中治療が必要になり、死に至ることもある病気です。したがって感染が疑われる派遣労働者やその者に接触する者の健康に必要かつ適切な配慮をすることは、使用者である派遣元事業主の安全配慮義務の一内容といってよいでしょう(労契法第5条)。また、派遣先も、労働契約関係はありませんが、派遣労働者に対し業務上の指揮監督をする立場にありますから、その症状等によっては、当該派遣労働者や、自社の労働者を含め、その者に接触する者への適切な安全への配慮が求められる場合があり得ると考えられますし(派遣先の安全配慮義務違反を認めた後掲裁判例参照)。
その意味で、風邪症状のある派遣労働者を就業させることが直ちに派遣元及び派遣先の安全配慮義務違反に当たるとはいえないものの、休業させることは、両社にとって、安全配慮の観点でも、公益の観点でも、望ましいというべきでしょう。なお、労働者の症状の程度や感染可能性の程度によっては、就労させないことが安全配慮義務の内容になる可能性もあります。

⑵ こうした新型コロナウイルスに対する企業の対応を支える観点から、雇用を維持しながら休業補償をする雇用主に対して雇用調整助成金の特例措置が設けられています(上限額が日額15,000円まで引き上げられる方向で検討されており、手続きも従前に比べれば簡素化されています)。
また、仮に助成金が支給されない場合であっても、例えば、派遣元には派遣労働者に休業手当(平均賃金の60%以上)を支払ってもらい、派遣先も一定割合を負担する案が考えられます。派遣先指針では、派遣先の責めに帰すべき事由により労働者派遣契約が解除されたことにより、派遣元が休業手当を支払う場合には派遣先はその額を損害賠償することが定められています(一般的な労働者派遣基本契約書では同様の規定が定められていることが多いと思われます)。他方、この場合には、一時的に休業させるにとどまります。そこで、解除した場合との比較を念頭に、この休業手当額を派遣元、派遣先の双方で分担することが妥当とも解されます。
いずれにせよ、派遣労働者が新型コロナウイルスに感染した疑いがあることは、派遣元、派遣先いずれにも責任はなく労務管理上そして安全配慮義務の観点からも派遣元、派遣先ともに、感染している可能性がある派遣労働者の就労は避けることが適切ですから、助成金の利用や、派遣労働者の交代も検討しながら、話し合いで双方の利益を調整することが求められます。

 

4. 派遣労働者が従事する業務の専門性が高いこと等により、他の派遣労働者による代替が難しい場合

⑴ 前述のように、派遣労働者の症状の程度や感染可能性の高さによっては、派遣元は、派遣労働者らへの安全配慮義務の履行などのために、当該派遣労働者を就業させることはできませんので、派遣先で就業する他の派遣労働者を手配する等の補償をする必要が生じますが、当該派遣労働者の従事する業務の専門性が高いこと等により、他の派遣労働者による代替が難しいことがあります。
そもそも、労働者派遣基本契約には、一定のやむを得ない場合には、派遣労働者を交代させ得る旨が規定されていることが多いのですが、他の派遣労働者では代替できないような人材であれば、派遣元の労働者派遣契約上の役務提供義務は、当事者双方の責めに帰することができない事由により履行不能となり、派遣先はその履行を請求できなくなります(民法第412条の2。なお、労働者派遣契約が令和2年3月末日までに締結されている場合は、改正前民法が適用されるため派遣元の債務は履行不能により消滅することになります。)。そして、民法の危険負担の規定(民法第536条第1項)により、派遣元が履行不能の危険を負担することとされて、派遣先は派遣料金の支払いを拒否できることになります。この際、履行が不能となったか否かは、契約内容及び取引通念に照らし判断されますが(民法第412条の2)、代替できない派遣労働者の傷病が原因であれば、認められるでしょう。
民法上は、このような解釈に基づき解決すべきこととなりますが、本問のような場合、結局、労働者の症状の程度や感染可能性の高さは、直ちに明らかにはなり難いので、派遣元・先双方の適正な労務管理と公平の観点からも、助成金も活用しながら、話し合いで解決することが望まれます。

⑵ なお、その症状から派遣をすることが可能な状態であり、派遣元が派遣する意思であるにもかかわらず、派遣先の主観的な判断で休業をさせた場合には、2の場合と同様に、派遣元は債務不履行責任を免れるとともに、派遣先は受領遅滞(民法第413条第1項)となり、それによって派遣元の債務の履行が不能になったと認められるため、危険は派遣先の負担となり、派遣料の支払いを拒むことはできません。

以上


(参考文献等)

1. 厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

2. 派遣労働者に対する派遣先の安全配慮義務を肯定した裁判例としてティー・エムー・イーほか事件・東京高判平成27・2・26労判1117号5頁、七十七銀行事件・仙台高判平成27・4・22労判1123号48頁。
また、土田道夫同志社大学教授は、もともと安全配慮義務は、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間」に認められる義務であるため(自衛隊八戸車両整備工場事件・最判昭和50・2・25民集29巻2号143頁)、直接の労働契約関係にない当事者間でも肯定されうるとしつつ、労働契約における安全配慮義務がより高度の内容を有する以上、労働契約と同視できるような関係(労務の管理支配性=実質的指揮監督関係)が必要としている(「労働契約法第2版」550頁以下)。
社外工など労働契約関係にない者への安全配慮義務が問われた裁判例を整理したうえで、安全配慮義務を負うのは、リスクを創出したり、安全管理が可能な立場にある者だとした文献に、三柴丈典「社外労働者に対する安全配慮義務」労働判例百選(第8版)114-115頁がある。

3. 派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11・11・17労告138号)

4.内田貢「民法Ⅲ(第4版)」98頁以下、124頁以下、「民法Ⅱ(第3版)」60頁以下。

 

〈執筆者〉

吉田肇 (弁護士法人天満法律事務所所長・弁護士、元京都大学法科大学院客員教授、日本産業保健法学会理事)

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