Q1 新型コロナウイルスに感染症の労災認定について

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Q1 新型コロナウイルスに業務で感染した労働者は、労災を認定してもらえるのですか?感染リスクのある職場で働く人などが、きちんと補償を得られるかどうか心配です。

※この質問は2020年5月5日、学会サイトに掲載されたQ&Aからの転載です。

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A  感染経路が特定され、業務または通勤との関連性が認められる場合、労働者は労災保険給付の対象となり得ます。ただし、本ウイルスの潜伏期間の長さなどの特性上、感染経路の調査には困難が伴うと想定されます。

厚生労働省は、当分の間、医療・介護の従事者については、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則労災として取扱う方針です。また、複数の感染者が確認された職場での業務、小売業の販売、バスやタクシーの運送、育児サービスの業務といった感染リスクが相対的に高いと考えられる業務の従事者については、感染経路が特定できなくても、業務により感染した蓋然性の高さなどから個別に判断するとされています。

これら判断の簡素化や整理が図られたことで、適切に労災の補償が得られる状況が一定程度は整備されたといえるでしょう。


【解説】

労災(労災保険法上の業務災害)と認められるには、主に業務遂行性(業務中に起こったことか)、業務起因性(業務と疾病に一定の因果関係があるか)の2つの要素を満たす必要があります。この認定は労基署に委ねられており、個別の事案ごとに調査し判断することになっています。

伝染性の疾患の場合、これらの判断には感染経路の特定が重要となります。業務中に感染者と接触した可能性があっても、調査の結果、業務外での感染者との接触などが疑われ、感染経路が特定できなかったとされれば、業務起因性を否定されることになるでしょう。市中感染などにより感染が蔓延している感染症には、通常、労災を認めにくいことになります。

新型コロナウイルスについても、潜伏期間の長さや無症状でも感染リスクがあることなどの特性がいわれ、市中感染を含め広く感染が蔓延しているため、感染経路の特定には相当の困難が伴うと想定されます。従来の運用では、労災認定の可能性に疑義が生じ易い条件にありました。

なお、感染経路の特定は、基本的には通勤災害の認定でも必要になります。とはいえ、通勤に電車やバスといった公共交通機関を利用している場合、居合わせた感染者を不特定多数の往来から追跡するのはほとんど不可能であるため、背理法的に明らかな場合(:通勤以外に感染源にばく露していないことが明らかな場合)などの特殊事情がない限り、感染経路の特定は困難だと考えられます。したがって、業務災害に関する下掲の通達のような、政策的に特殊な救済方法が採用されない限り、適用は困難と解されるため、以下では、いったん通勤災害への言及を省きます。

 

厚生労働省は早くから、ホームページの「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」と「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」に労災補償の項目を設け、労働者が新型コロナウイルスに感染した場合、「業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。」と案内していました(なお、各Q&Aは本年1月ころから掲載され、内容は頻繁に改訂されています。)。

これが具体的な認定のあり方に踏み込まない内容だったこともあり、医療関係者などを中心に、労災が認められないのではないかといった不安の声が挙がっていたようです。

現に、本年2月の段階で厚生労働省が各都道府県労働局の労働基準部労災補償課長に対し発出した内部通達では、主に感染機会や感染経路を明確に特定できるかを基準に判断し、感染から発症までの潜伏期間や症状等に医学的な矛盾がないか、業務以外の感染源や感染機会が認められない場合に該当するか否かなどの実情を調査したうえで認定する旨の方針を示すにとどまっていました(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」(基補発0203第1号 令和2年2月3日))。

 

そこで、新たな通達(「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発0428第1号 令和2年4月28日))が発出され、ホームページの各Q&Aも改訂されました。同通達と各Q&Aには、概ね以下のように示されています。

 

当分の間、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、労災保険給付の対象とする。

 

1 医療従事者等
患者の診療、看護、介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる。

2 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの
感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となる。

3 医療従事者等以外の労働者であって上記2以外のもの
調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断する。この際、ウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断する。

(1)複数の感染者が確認された労働環境下での業務
請求人を含め2人以上の感染が確認された場合をいい、労働者のみならず施設利用者が感染している場合も想定する。

(2)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境での業務
小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等を想定する。

 

以上のような整理と判断の簡素化が図られたことにより、該当する業務の従事者には、労災の補償がより円滑かつ被災者の有利に実施されることが見込まれます。より盤石とするために、職場での感染リスクを自覚している労働者は、無理のない範囲で普段の生活のメモをとっておくとよいでしょう。たとえば医療・介護従事者であれば、積極的に「業務外で感染したことが明らかである場合」に当たらないと示すことにつながり、より円滑に手続きを進められるはずです。

事業継続が望まれる社会インフラ等の業種を中心に、感染の不安を押して働き続けている労働者が多く存在します。防護具等の不足がいわれるなか、身命を賭して治療等にあたっている医療・介護の従事者に象徴されるように、働くうえでの心理的な安全の確保は重要な課題だと思われます。それらの事業主は、事業継続と並行して、万が一感染した場合の補償がどうなるのか、労災補償申請の支援はもとより、上積み補償を行うか否か等について、方針を示しておくことも一案でしょう。

以上


(参考文献)

1.厚生労働省・通達「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発0428第1号 令和2年4月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000626126.pdf

 

2.厚生労働省・ホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」
4 労災補償の各問
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00018.html

 

3.厚生労働省・ホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
7 労災補償の各問
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

 

〈執筆者〉
西園寺 直之(伝馬町法律事務所・弁護士)
山本 喜一(社会保険労務士法人日本人事 代表・特定社会保険労務士)

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